世の中には、捨て置かれた放置ブログが星の数ほどあります。たいていは誰の目にも留まることはありませんが、『忌録』という電子書籍で紹介されて、一躍脚光を浴びた放置ブログがあります。
それは、ある若い女性が綴った『綾のーと。』というブログです。
大学を途中でやめてしまった女性が、日々の記録を綴った平凡なブログだったのですが、やがてブログは本人も意図していなかった方向に展開していきます。
それは、彼女が借りた物件が事故物件であったためです。いわゆる、幽霊が出る部屋だったのです。
彼女は、幽霊の証拠を残すために部屋をウェブカメラで撮影し、その動画はYouTubeにも公開されています(動画は後ほど紹介します)。
『綾のーと。』に綴られている記録は、真実なのか、それとも創作なのでしょうか? また、この怪ブログを紹介している阿澄思惟という人物は誰なのでしょうか?
当記事では、怪ブログ『綾のーと。』を考察してみます。
放置された怪ブログ『綾のーと。』
怪ブログ『綾のーと。』は、阿澄思惟というペンネームの人が書いた電子書籍の『忌録: document X』の中で紹介されています。本の冒頭には、以下の文言が記されています。
本書は、著者が2006年から2012年までの間に収集した四つの事件の記録資料を、権利者の許可を得て公開するものです。
『綾のーと。』は、その四番目の事件の忌録として掲載されています。
『綾のーと。』のブログの全記事が、写真も含めてそのまま掲載される形で紹介されているのですが、読者はその記事を読んで、何が起きたのかを判断するしかありません。
『綾のーと。』の概要
『綾のーと。』のブログは2012年3月17日から始まり、2012年5月29日まで続いて、それ以降は放置されています。わずか2か月余りの期間です。
ブログ主は、親にも言わずに勝手に大学をやめてしまった若い女性・綾です。彼女は引っ越して新しい生活を始めたものの、黙って大学をやめたことが心に引っ掛かったまま思い悩んでいます。
そこで綾は、気晴らし程度にブログを始めます。最初は読んだ本の紹介などをしていました。しかし、それがじわじわと、怪ブログへと変貌していくことになります。
その理由は、綾が引っ越したマンションの部屋が、事故物件である可能性が出て来たからです。
事故物件とは、前の居住者が事件、事故、自殺などで死亡した物件のことを言います。事故物件の中には、いわゆる「幽霊が出るいわくつきの物件」もあります。
霊感のある人には、とても住めた物件ではないでしょう。徐々に彼女は、この部屋には幽霊が居着いているらしいことに気付いていきます。
それが『綾のーと。』という放置ブログに記録されているのです。
どんな幽霊なのか?
綾の部屋に起きた具体的な霊現象としては、下記のことが『綾のーと。』のブログに書かれています。
- お風呂と部屋に長くて黒い髪の毛が落ちている
- 夜に壁を、ドンドン!と叩かれた
- 夜中にヒソヒソ話が聞こえる
- 誰かの気配を感じる
あまりにも奇妙に感じた綾は、マンションの管理人さんに相談してみました。すると、実は管理人はその部屋に幽霊が出るらしいことを以前から知っていたのでした。
たいていの住人は気味悪がって、一ヶ月か二ヶ月で部屋を出て行くそうです。
綾は引っ越したばかりで、バイトも探している最中なので、引っ越す費用はありません。親にはまだ大学をやめたことを言っていないので、親にも頼れません。
その後、幽霊の障りなのか、綾は徐々に精神状態が不安定になっていきます。心療内科に通いながらブログの更新を続けているのですが、よくこんな夢を見たそうです。
それは、毎日同じ女性が夢の中に出て来て、同居している男性に毎日殴られたり、髪の毛を掴まれたりしている恐ろしい光景です。
部屋に出る幽霊は、その女性ではないかと綾は考えました。同居していた男性の暴力により、不遇な死を遂げた女性が地縛霊になって祟っているのかもしれません。
不動産屋に事故物件だと訴える
精神が疲弊し、思い悩んでいた綾ですが、そもそもこんな事故物件を紹介した不動産屋にも責任があると考えます。
そこで綾は、彼女を心配してくれていた兄と一緒に不動産屋に行って、敷金礼金と家賃の返還を求めます。
この要求は、「不動産屋は幽霊が出ることを知っていたのに、その説明をしなかった」という説明義務違反が争点になります。とはいえ、幽霊の存在は現在の科学で証明されていません。
それは不動産屋も承知なので、「幽霊が出るという証拠があれば交渉に応じる」と言ってきたのです。
普通ならば、この言葉で諦めるのでしょうが、綾はウェブカメラで部屋を撮りっぱなしにして、幽霊を撮影できるかどうかを試してみたのです。
幽霊の姿をはっきりと撮影できたならば、それが証拠になり、敷金礼金と家賃が返還がされるかもしれません。
ここからが、この話の真骨頂になります。次ページでは、『綾のーと。』に記された怪奇現象と、実際にYouTubeに掲載された動画について考察してみます。