キリスト教では、「最後の審判」の日に魂の重さを量られて、その人間が天国へ行くか、地獄へ行くかが決められると言われています。
上の絵(ロヒール・ファン・デル・ウェイデン作)では、大天使ミカエルが天秤を持ち、魂の重さを量っているところです。魂が軽い人は天国に迎え入れられて、魂が重い人は地獄へ落ちている構図になっています。
この場合の魂の重さとは「罪の重さ」になるのですが、米国マサチューセッツ州に住んでいた医師、ダンカン・マクドゥーガル(Duncan MacDougall)博士は、実際の魂の質量を量る実験を行っています。
その結果、魂の重さは21グラムと報告しています。興味深い実験ですので、以下にご紹介します。
魂の重さは21グラム
魂は目に見えませんし、触れることもできませんね。では、魂の重さ21グラムは、どのようにして量られたのでしょうか?
魂の重さの量り方
古来より、「人間には魂が宿っていて、死と同時に肉体から離れる」と伝えられています。これが本当ならば、死の前後では体重の変化があるはずです。
そのように考えたマクドゥーガル博士(上写真)は、1901年4月10日、死を目前に控えた患者に依頼して、体重の変化を量る実験を行ったのです。
体重の変化を量る方法としては、当時もっとも精巧と言われていたフェアバンク社の台付きの量りに木枠を取り付け、その上に簡易ベッドを置いて患者を寝かせました。
マクドゥーガル博士は、結核患者を治療するサナトリウムに勤務しており、この方法で患者6人の体重の変化を調査しています。
その結果、1名の患者の死後に、4分の3オンス(21グラム)の体重の減少が見られました。
この実験の結果は、ニューヨーク・タイムズや医学雑誌にも掲載されて、センセーショナルな話題になりました。これ以降、人間の魂の重さは21グラムであると広まっています。
魂の重さは、汗の重さだった?
マクドゥーガル博士は死後の体重の減少によって、魂の存在を立証しようとしましたが、もちろん、これには多くの反論も出ています。
有力な説としては、発汗作用による体重変化です。それによると、人間は死んで呼吸が止まると、一時的に体温が上昇すると言うのです。これは肺が行っていた冷却作用が、死と同時に止まってしまうために起きる現象だとしています。
要するに、死後の体重の減少は肉体から魂が離れたからではなく、発汗のためだという見解です。
但し、これも素直に頷けない点があります。なぜならば、汗をかいたとしても、汗が瞬時に蒸発するとは思えないからです。
マクドゥーガル博士の実験では、死んだ直後に体重の変化を量らなければ意味がありません。このため、汗が蒸発するまでの時間を置いてから、体重の変化を量ったとは考えにくいのです。
汗が蒸発しなければ、総量の変化は起きませんね。そうなると死後の体重の減少は、発汗作用では説明できないのではないでしょうか?
マクドゥーガル博士も、死の直後には血液の循環も止まっているので体温は上がらないと反論しています。
実際に、死後は身体の熱産生が停止するので、むしろ、体温は下がるはずです。死体が汗をかくのも奇妙ですね。発汗による体重減少の説は、本当に医学的に正しい見解なのかどうかも疑問が残ります。
とはいえ、たったの21グラムの重さです。単なる計量の誤差かもしれないので、微妙な重さではあります。
魂に質量があるのは嘘か?
「魂に質量があるなんて、嘘に決まっている!」と思う人も多いでしょう。そもそも、魂の存在を信じない人もいます。
反論は出ているものの、マクドゥーガル博士の実験により、魂の重さは21グラムという説が有名になったことは事実です。
但し、これは調査した患者6名の平均の重さではなく、1人目の患者の結果に過ぎません。そのうちの2名は、計量に失敗したことも博士は認めています。
また、6名の調査だけでは信憑性の高いデータは言えませんね。死んだ瞬間をどのように判定するのか?という基準も曖昧であったようです。
マクドゥーガル博士は、犬15匹にも同様の実験を行いました。その結果、どの犬にも体重の減少は認められませんでした。
そこで博士が下した結論は、「人間には魂はあるが、犬には魂はない」というものでした。かなり強引な結論なので、これには私も賛同できません。
ちなみに、犬には汗腺がありません。だから発汗による体重の減少もありません。これは魂の重さは「汗の重さ」だったとする説を、後押しするような結果にも受け取れてしまいます。
マクドゥーガル博士の実験は100年以上も前のことであり、以降、魂の重さの減少に関して、実験に成功したという話もありません。
これでは、「魂に重さがあるなんて嘘だ」と言われても、仕方がないのだとは思います。
魂の重さを量る実験は困難
今の時代ならば、最先端の精密機械を使えるので、もっと正確な調査が可能でしょう。
しかし、魂の重さを量る実験を行うこと自体が、非常に困難だと思います。本人はもちろん、家族の了承も得て、人間の死の瞬間に立ち会い、科学的な検証に耐える数多くのサンプルを収集しなければならないからです。
そんな実験をする医師などいないでしょうし、いたとしても、「命の重さを何だと思っているんだ!」と非難されてしまうでしょう。
このため、魂の重さは21グラムという説は、新たに検証されることもなく、嘘か本当かも分からないまま、今後も都市伝説のように伝えられていくのだと思います。
但し、魂の重さを確認できないからといって、魂の存在まで否定できるものではありません。肉体から離れた魂は、あの世に旅立つため、別次元の存在となるからです。
霊界(すなわち4次元以降)のものを、3次元のモノサシで測ることができるでしょうか?
だから霊能者でもない限り、幽霊は目に見えないのであって、私たちが生きている三次元では、そもそも魂の重さを量ること自体が不可能なのだとも考えられます。
映画『21グラム』
『21グラム(21 Grams)』という映画も話題になりました。映画のタイトルは、マクドゥーガル博士が魂の重さを量った実験に由来しています。
ショーン・ペン主演の映画で、日本では2004年に公開されています。どんな映画なのか気になったので、私も観てみました。
結論を先に言うと、ホラーやスピリチュアル系の映画ではありません。心臓移植をめぐり、3人の男女の人間ドラマが丹念に描かれている作品です。
「魂の重さ21グラムについて、いつ触れるのだろう?」と思いながら観ていましたが、最後に以下のような台詞が出て来ます。
人は何度、人生を生き、人は何度、死ぬのか?
人が死ぬと21グラムだけ体重が減るという。どんな人も。
21グラムとは何の重さだろう?
何を失うのか。いつ21グラム減るのか。
どれほど失うのか。何が得られるのか。どれだけ得られるのか。
21グラム。それは5セント硬貨5枚分の重さ、ハチドリの体重、チョコバー1個。
21グラムの重さとは?
仮に魂に重さがあったとしても、それはたったの21グラムです。しかし、人生の重さは、限りなく重いのです。人それぞれに、重さの質も異なってきますし、そもそも重さを量れるものではありません。
映画『21グラム』は、魂の重さというよりも、「人生の重さ」を問い掛けている作品です。当ブログで紹介するジャンルの映画ではないのですが、興味のある方はぜひご覧ください!
いろいろと考えさせられる作品です。映画『21グラム』は、下記の動画配信サイトで観られます。(2018年11月17日現在の情報です。公式サイトで確認してください)