ヴォイニッチ手稿は、世界で最も謎に包まれた奇書と言われています。
なにしろ、文字と彩色された絵、図式などで埋め尽くされた約240ページもの手記が実在しているにも拘わらず、そこに何が書かれているのか全くの謎のままなのです。
世界中の言語学者、歴史学者、暗号解読の専門家たちが、何度もヴォイニッチ手稿の解読に挑んでいるのですが、未だに解読されていません。単に文字が解読できないだけでなく、有り得ないミステリーが、さらに大きな謎を深めています。
例えば、ヴォイニッチ手稿に描かれている幾つもの植物の絵などは、あたかも目の前で見ながら描いているかのように丹念にスケッチされています。ところが、そのほとんどは地球上に存在していない植物なのです。
いったい誰が何のために、このような手稿を残したのでしょうか? この謎が解き明かされる日が、果たしてやって来るのでしょうか? 大きな謎に包まれたヴォイニッチ手稿をご紹介します。
世界で最も謎に包まれた奇書、ヴォイニッチ手稿とは?
ヴォイニッチ手稿は、ポーランド系アメリカ人の古書収集家であるウィルフリッド・ヴォイニッチ(Wilfrid Michael Voynich:上写真)が、1912年にイタリアで発見したものです。発見された場所は、ローマ近郊のモンドラゴーネ寺院の書庫です。
発見者であるヴォイニッチの名前にちなんで、現在では通称『ヴォイニッチ手稿(Voynich Manuscript)』と呼ばれています。
ヴォイニッチ手稿が初めて歴史に登場するのは、さらに昔に遡ります。1582年にボヘミア王ルドルフ2世が、この奇書を600ダカット(現在価格で約15,000,000万円相当)で購入したことが分かっています。しかし、誰から購入したのかは分かっていません。
その後、数人の手に渡りながら、1665年にイエズス会司祭であり、学者でもあるアタナシウス・キルヒャーに寄贈されます。しかし1666年を最後にして、ヴォイニッチ手稿の所在が不明になります。
そして1912年にウィルフリッド・ヴォイニッチによって、再発見されることになったのです。
ヴォイニッチ手稿の内容
現在、ヴォイニッチ手稿はイェール大学のバイネッキ図書館で厳重に保管されています。
未だにヴォイニッチ手稿の内容が解読されておらず、様々な見解があるために統一されているわけではありませんが、バイネッキ図書館では描かれている挿絵から下記のように分類しています。
便宜上、当記事でもこの順番に従って、ヴォイニッチ手稿をご紹介していきます。
- 第1部 植物
- 第2部 天文学もしくは占星術
- 第3部 生物学
- 第4部 精巧な9つのメダイヨン
- 第5部 薬学
- 第6部 連続するテキスト
ヴォイニッチ手稿【第1部】 植物
ヴォイニッチ手稿には、113種類の植物が描かれています。しかし驚くことに、そのほとんどは未知の植物なのです。
実際に地上にある16種類の植物もあるということですが、根や茎の断面図などは1590年に発明された顕微鏡がなければ描けないと言われています。
ヴォイニッチ手稿の存在が、歴史に初めて登場するのは1582年のことですから、描かれた当時に顕微鏡はなかったことになります。
作者の空想の産物とする向きもありますが、想像だけで正確な描画はできないのではないでしょうか?
ヴォイニッチ手稿【第2部】 天文学もしくは占星術
ヴォイニッチ手稿においては、天文学もしくは占星術という括りになっていますが、実際には何を意味している図式なのかは分かりません。
真ん中に描かれているのは太陽と思われますが、これが私たち太陽系の太陽であるのか、それさえも定かではありません。想像だけでこのようなものを描けるとは思えませんが、一説には時間や日数の周期を表しているという見解もあります。
ヴォイニッチ手稿【第3部】 生物学
ヴォイニッチ手稿では、生物学として分類されていますが、裸体の女性が何人も登場する謎のページ構成になっています。
臓器と思われるようなものや、管のようなものが多く描かれており、女性たちが浴槽に浸かっているような絵が描かれています。
女性は妊婦のように見えるので、生殖の仕組みを擬人化して描いたものなのかもしれません。
ヴォイニッチ手稿【第4部】 精巧な9つのメダイヨン
こちらは6ページを使って描かれています。ヴォイニッチ手稿の中でも、特に印象深いページです。
メダイヨンとは大型メダルのことですが、宇宙を象徴的に表しているのか、それともどこかの地形の見取り図なのか、誰にも分かりません。
意味は不明ですが、全て異なる紋様の9つのメダイヨンが繋がっており、けっこう緻密に描かれています。
ちなみに、九つの宇宙論と言うと、北欧の神話に伝わる九つの世界(世界樹ユグドラシルで繋がっている)を想起させます。映画『マイティ・ソー』でもお馴染みの世界観ですが、何か関連性はあるのでしょうか?
ヴォイニッチ手稿【第5部】 薬学
ヴォイニッチ手稿で、薬学の部とされているページです。こちらにも植物が紹介されていますが、おもに根の部分がたくさん描かれています。
左には容器のようなものが描かれており、何かの生薬の作り方を示しているような印象を受けます。あるいは調味料のスパイスの生成法なのでしょうか?
ヴォイニッチ手稿【第6部】 連続するテキスト
ヴォイニッチ手稿の最後になってくると、挿絵のない文字だけのページが続きます。挿絵はありませんが、毎ページに星か花のような記号が、文字列の左端にあります。ただのデザインなのか、意味を持っているのかは不明です。
文字には繰り返しがとても多いという特徴があり、一部を変えただけの単語も多いということが分かっています。1~2文字の単語や、逆に長すぎる単語も、ほとんど使われていません。平均すると5文字前後の単語が多いということです。
一部でも解明できればよいのですが、残念ながら今のところ、具体的な内容が分かっている文章はありません。
ヴォイニッチ手稿で現在分かっていること
ヴォイニッチ手稿そのものについては、ほとんど何も分かっていないのですが、現在おもに知られているところは下記のことになります。
約240ページの羊皮紙
ヴォイニッチ手稿の本の大きさは、23.5cm×16.2cm×5cm。現存する分で、約240ページの羊皮紙で作成されている。折りたたまれた3ページ以上の見開きで構成されているページも存在する。
欠損ページもあるため、正確なページ数は不明である。
欠損しているページ
ヴォイニッチ手稿で欠損しているページは、12、59、60、61、62、63、64、74、91、92、97、98、109、110のページ番号(計14)。基本的に一つの番号で2ページの見開き構成になっているため、少なくとも「14×2=計28ページ」が現存していない。
でたらめな文字列ではない
ヴォイニッチ手稿に書かれている文章を、言語学の統計的手法で解析した結果、でたらめな文字列ではなく、自然言語か人工言語のように、確かな意味を持つ文章列であることは判明している。
1950年代には、アメリカの国家安全保障局の暗号解読の専門家たちが、ヴォイニッチ手稿の解読を試みた。しかし、米政府が抱える暗号解読の精鋭のプロでさえも、解読できなかった。
現在に至るまで、誰もヴォイニッチ手稿の解読には成功していない。
服飾に基づく判定も困難
ヴォイニッチ手稿に描かれている人物のほとんどが、全裸の女性であることから、服飾に基づく文化や時代の判定も困難となっている。
レオ・レヴィトフは1987年に出版した著書で、浴槽に浸ったような女性の絵は12世紀から13世紀頃に南フランスで栄えたカタリ派の「耐忍礼(endura)」の儀式を表しており、また言葉はフラマン語を基にしたクレオール言語で書かれているとした。
しかし、この見解は誤りであることが確認されている。
1404~1438年の間に作られた羊皮紙を使用
2011年、アリゾナ大学がヴォイニッチ手稿に使われている羊皮紙のサンプルを、放射性炭素年代測定にかけてみたところ、1404~1438年の間に作られた羊皮紙という測定結果を得ている。
これはあくまでも羊皮紙の測定結果であり、執筆はそれ以降の可能性もある。
作者はロジャー・ベーコン?
ヴォイニッチ手稿の作者については、イギリスの哲学者ロジャー・ベーコン(1214~1294年)が、宗教的迫害から身を守るために暗号を使って書いたという説がある。
また、中東付近に暮らしていた既に滅んだ民族が用いていた言語が使用されているなどの説もある。しかし、どれも決定的な確証はない。
次ページでは、「ヴォイニッチ手稿は、いったい誰が何のために書いたのか?」について、考察してみます。また、このヴォイニッチ手稿を、無料でダウンロードできるリンクもご紹介します。